残業代を請求できる期間は、それぞれの給料日から3年です。法律の本来の定めは5年ですが、経過措置によって当分の間は3年とされています。時効は給料日ごとに1か月分ずつ進むため、請求が遅れるほど古い月の分から請求できなくなっていきます。
この記事で分かること
- 残業代の時効が3年とされる根拠
- 起算点(いつから数えるか)と具体的な数え方
- 時効の完成を止める方法と、その注意点
- 期限が迫っているときに取るべき手順
残業代の時効とは
時効(消滅時効)とは、一定の期間、権利を行使しないと、その権利が消滅してしまう制度です。
労働基準法115条は、賃金の請求権の時効を5年と定めています。ただし、附則143条3項の経過措置により、退職金を除く賃金の請求権は「当分の間」3年とされています。この扱いは2020年4月1日以降に支払期日が来た賃金に適用されており、2026年9月時点でも変わっていません。
「当分の間」がいつまで続くかは、法律では決まっていません。現時点では、3年を前提に考える必要があります。制度の概要は、厚生労働省の賃金請求権の消滅時効に関するQ&Aでも確認できます。
起算点と時効期間の数え方
残業代の時効は、働いた日でも退職日でもなく、本来その残業代が支払われるべきだった給料日から数えます。
例えば、月末締め・翌月25日払いの会社で、2024年9月分の残業代が支払われていなかったとします。支払日は2024年10月25日なので、翌日から数えて3年後の2027年10月25日が過ぎると、時効にかかります。10月分、11月分も、それぞれの給料日から1か月ずつ遅れて時効が進みます。
在職中でも時効は進みます。「退職してから3年以内なら全期間を請求できる」わけではない点に注意してください。
| 権利 | 時効期間と根拠 |
|---|---|
| 残業代などの賃金 | 給料日から3年(労働基準法115条・附則143条3項) |
| 退職金 | 行使できる時から5年(同上) |
| 付加金 | 違反のあった時から3年(同法114条・附則143条2項) |
| 年次有給休暇を取る権利 | 2年(同法115条) |
付加金とは、未払いの割増賃金などについて、裁判所が未払額と同一額までの支払を命じることができる制度です。なお、有給休暇を取った日の賃金が未払いの場合は、賃金として3年の対象になります。
時効の完成を止める方法
催告(内容証明郵便などによる請求)
会社に支払を請求すると、その時から6か月間は時効が完成しません(民法150条)。これを「催告」といいます。請求した日と内容を証明できるよう、内容証明郵便を使うのが一般的です。ただし、6か月の間にもう一度請求しても、猶予は延びません。
訴訟などの裁判上の請求
訴訟を起こすと、手続が続いている間は時効が完成しません。判決や和解で権利が確定すると、そこから新たに時効が進みます(民法147条)。
協議を行う旨の書面での合意
会社と「未払い残業代について協議する」ことを書面で合意すると、原則として1年間は時効が完成しません(民法151条)。ただし、催告による猶予期間中に合意しても、さらに猶予が延びるわけではありません。
会社による承認
会社が未払い残業代の存在を認めると、時効はその時から改めて進みます(民法152条)。例えば、未払額を認める書面を受け取った場合などが考えられますが、承認に当たるかどうかは個別の判断になります。
一方、弁護士に相談しただけ、労働基準監督署に申告しただけでは、時効は止まりません。
時効との関係で確認したい資料
- 給与明細:給料日と支払額を確認し、どの月から時効が近いかを把握します。
- 就業規則・賃金規程:締日と支払日を確認します。
- 勤務時間の記録:古い月ほど、時効の前に請求の根拠を固めておく必要があります。
- 請求書の控えと配達証明:催告をした日と内容を証明します。
会社には賃金台帳などの記録を保存する義務がありますが、保存期間も当分の間3年です。時間がたつほど、会社側の記録も集めにくくなります。
期限が迫っているときの対応手順
- 一番古い未払い月の給料日を確認する:その給料日から3年がいつ満了するかを計算します。
- すぐに弁護士に相談する:請求の対象期間と、概算の金額を整理します。
- 内容証明郵便で請求する:どの期間の残業代を請求するのかが分かるように書き、6か月の猶予を確保します。
- 6か月以内に次の手段をとる:交渉で支払の合意をするか、協議の書面合意、労働審判や訴訟などを検討します。
- 合意の内容は書面に残す:支払額と支払日を明確にします。
労働審判に会社が異議を出して訴訟に移った場合は、労働審判の申立ての時に訴えがあったものとみなされます(労働審判法22条)。どの手続を選ぶかは、期限までの残り日数も踏まえて判断します。
よくある質問
Q. 2020年3月以前の残業代は請求できますか?
2020年3月31日以前に支払日が来た賃金には、改正前の2年の時効が適用されます。裁判上の請求などをしていない限り、通常はすでに時効が完成しています。
Q. 時効期間を過ぎた分は、一切請求できないのですか?
時効期間が過ぎても、会社が時効を主張(援用)しなければ、裁判所は時効を理由に判断できません(民法145条)。ただし、実際には会社が時効を主張することが多いため、期限内に対応することが大切です。
Q. 退職金の請求も3年ですか?
退職金の請求権の時効は5年で、残業代とは異なります。退職金規程で定められた支払時期を確認してください。
まとめ
- 残業代の時効は、それぞれの給料日から3年です(当分の間の扱い)。
- 在職中も時効は進み、古い月の分から順に請求できなくなります。
- 催告の猶予は6か月だけで、その間に次の手段が必要です。
- 相談や監督署への申告だけでは時効は止まりません。
まずは一番古い未払い月の給料日を確認し、残り期間を把握してください。期限が近い場合は、お問い合わせの際にその旨をお知らせください。
